意識的、無意識の違いと利点、習得に必要なことを説明する
選手がトレーニングをするのには、当然ながらいくつかの目的がある。
「出来ないことを出来るようになる」
「知らないことを教わる」
それに加えてもう一つ。
「無意識に出来るようになるまで落とし込む」
というものがある。
今回は、この無意識に出来るという所にスポットを当ててみたい。
本稿を読むことで、チームトレーニング、自主トレのどちらにも好影響が出ると筆者は確信している。
「意識的に出来る」の意味
まずは、意識的に出来るという言葉の意味から考えてみよう。
この言い方、筆者はあまり好きではない。
実際にプレーしてきた実感から言い方を正すとすれば
「意識すれば出来る」
という言い方が体感としては、より近いと思う。
具体的なプレーを例に出してみよう。
「パスが転がっている間にルックアップ」
というサッカーのセオリーがある。
だが、選手によっては習得できてない人ももちろん居る。
その選手がセオリーを習得する段階として、
出来ていないことに気付くor指摘される
↓
首を振り視線をボールから外してもトラップできるように練習する
↓
実戦で、「首を振らなきゃ」と意識すると出来る
という段階になる。
課題の認識
↓
課題の克服
↓
意識的に出来る
という段階を踏むわけだ。
そして自主トレの多くは、この課題の克服に使われることとなる。
シュートを正確に飛ばすのも、マークを外さないようにするのもこの段階の取り組みと言っていいだろう。
それに対し、チームトレーニングは実戦で出来るかどうかという点が大きい。
先程の例で言えば、「パスが転がっている間に首を振る」という行為をDFが居てボールを奪いに来る中でしっかり出来るか、ということだ。
これが実戦の状況で出来て初めて、意識すれば出来るという段階に達する。
先の書き方にならえば、
意識的に出来る
↓
何度もその行動をする
↓
無意識に出来るようになる
という順序を踏むことになる。
ただそのプレーが出来る、その先の段階に無意識が待っている。
またDFラインの統率など戦術的な要素も同じことが言える。
ラインは揃えて必要な上げ下げをする、というのは皆知っていることだし物理的には何も難しくない。
それを、実際にボールがあって相手が居て、という状況でどれだけ出来るのかを鍛えると捉えて頂ければ分かるかと思う。
実戦で出来ないことを出来るようにするのは無謀に近い。
相手が居ない状況で出来るようになったことを、実戦で出来るようにアジャストしていく。
それがチームトレーニングの意義の一つと言えるだろう。
これを知っていれば、
課題の抽出
↓
自主トレによる改善
↓
実戦でのアジャスト
というサイクルを自力で回すことが出来るため、成長速度が加速するはずだ。
無意識に出来るという意味
ここまで、意識的に出来るということを考えてきた。
この段階まで考えてトレーニングしている選手は少なくないと思う。
では、その先。
無意識に出来るということを考えてみよう。
無意識に出来ると言われても、筆者としてはやはり体感的にはしっくりこない言葉となる。
筆者の経験を元に、分かりやすく言い換えれば
「気が付いたらやっていた」
という言葉の方が良いのではと思う。
熱い物を触ったとき、
「手をどかさなきゃ」
と考える前に手は動いているはずだ。
これは本能であり習慣だ。
この時、気が付いたら手が動いてたという感覚になるのは分かって頂けるだろうか。
これがサッカーでも同様だという話になる。
引き続きルックアップを例に出してみよう。
おそらく、一定以上のレベルの選手は
「首を振って確認しないと」
といちいち考えていない。
当たり前のようにやることであり、脳で考えるようなものではない。
パスが来る→首を振るという一連の動きが体に染みついているのだ。
つまり目指すべきは、反射的に気が付いたらやっていたレベルまで必要な動作を習得するというところになる。
ボールキープやドリブルに優れた選手は、DFの足が伸びるのを見た瞬間、反射的にかわしている。
ゴールゲッターはシュートコースが見えた瞬間、考えるより早くシュートを打っている。
視野の広いMFは、常に首を振り続けている。
思考せずに染みついた行動を元にプレーする、それが無意識に出来るという段階になる。
無意識に出来るメリットとは
では、そのレベルまで到達した場合にどんなメリットがあるのだろうか。
なぜ無意識を目指す必要があるのか。
次はその点を見ていこう。
①無意識は早い
かつて、NHKで「ミラクルボディー」という番組内でチャビの脳活動に関しての分析が放送されていた。
要点をまとめると
「一般的な選手は考えながらプレーしているのに対し、チャビは反射的に思い出しながらプレーしている」
ということが明らかになっていた。
筆者はこの手の話をするとき、九九を例に挙げることが多い。
8×7という計算をするとき、しっかり計算する人と九九を覚えていて咄嗟に56と言える人。
どちらが早く、効率が良いかは明白だ。
そしてこれは判断だけで無く、技術的な要素でも同じだ。
相手がプレスをかけてきたとき、どうかわすか考える余裕はない。
考えずに体が勝手にDFをかわす、という段階まで技術を落とし込むことでプレススピードに負けずに戦うことが出来る。
正確に言えばかわすという判断なのだが、適切な技術を発揮するという意味では個人技だ。
ドリル形式の練習のメリットはここにある。
特にドリブル系のドリル練習は顕著だ。
咄嗟に出る技術、それは選手の無意識に依存する。
その時に出せる技術を磨くことが大切なのだ。
無意識、反射的というのは思考する選手はスピードにおいて絶対的に勝てない。
②脳内の余裕が広がる
皆さんはPCにおいて「メモリ」の概念が分かるだろうか。
簡単に言えば、同時に作業できる要領のことだ。
これが大きければ大きいほど、同時に複数の作業やアプリが開ける。
これは人間の脳においても同様だ。
マルチタスクとも呼ばれるが、同時に複数の物事を考えることが出来る人間は有能とされる。
サッカーでもまた然り。
他人のポジショニングを見つつボールを見つつ次の予測を正確にする、という難しい3つの行為を同時に思考するのは、まさしくマルチタスクだ。
考えることが山ほどある中で、処理のスピードを上げる方法は2つに分けられる。
一つ目は、メモリを増やすこと。
マルチタスクのトレーニング、ようは脳トレだ。
一時期取り沙汰された「ライフキネティックトレーニング」などもこの方法に当たるだろう。
いくつもの思考を同時に行うことに慣れるというもの。
そしてもう一つが、思考せずに実行できる訓練だ。
これは、無意識に出来ると同義だと考えて良い。
首を振ること、周りを見ることで頭がいっぱいの選手。
無意識まで落とし込まれており、全く考えなくとも周りを見れる選手。
より質の良いプレーが出来るのは、間違いなく後者だ。
判断の質が問われるスポーツだからこそ、頭を使わなくても一定のプレーが出来るというのは優れた選手になるために必要な条件と言える。
無意識に落とし込むために
ここまでで、無意識に出来ることの意味、そしてメリットを考えてきた。
そうなると最終的には、
「どうトレーニングすれば無意識に落とし込めるか」
という疑問に行き着く。
ここでは筆者の現役時代の取り組みを元に、そのプロセスを紹介したい。
①トレーニング中に意識する
まずは当然ながらここから。
再三例に挙げているルックアップで考えてみよう。
まず、ウォーミングアップで行われるような単純な対面パス。
この時点から、「ボールから目を切る」という動作を意識して取り組む。
この時点で易しい状況ではあるが、相当な回数の反復が出来る。
プレッシャーがない状況で出来るようになったら、それを実戦形式で取り組んでみよう。
ミニゲームだろうが崩しの練習だろうが、必ず受ける前に首を振ることをとにかく意識する。
出来なくても構わない、意識して実行しようとした回数を確保することが狙いだ。
②出来なかったシーンを振り返る
意識してやろうとしたが出来なかった。
そんなシーンが何度も何度も出てくるだろう。
そのシーンをしっかり思い出して、なぜ出来なかったかを分析しよう。
DFが近くに居たからかもしれないし、距離の短いパスだと視線を切れないのかもしれない。
ただただ「出来なかった。次はもっと意識する。」で終わらせてはいけない。
原因が分かるのと不明なままでは、改善スピードに大きな差が出る。
③原因を元にトレーニングする
原因が分かったら、それを克服するべくトレーニングしよう。
なるべく再現しながら、出来なかったことを出来るように。
ここは根気と頭の使い所だ。
なぜ出来ないのか。
どんな方法で練習したら効果がありそうか。
がむしゃらに頑張るのでは無く、効率の高い練習を考えた上で根気よく取り組んでいこう。
この③の段階、実は①と大して変わらない。
つまり、この2段階をループしていくのが上達のプロセスだ。
テスト、宿題、テストのループ
チームのトレーニングでは、自分のしたい練習が何度も出来るわけではない。
その代わり、相手が居る実戦的な状況で取り組むことが出来る。
自主トレは何度も反復できるが、相手を付けることが難しい。
このそれぞれの特性を考えたときに、一番効率がいいのはテストと宿題のループだ。
チームトレーニングという実戦でテストし、そこで得た課題を宿題として持ち帰る。
自主トレやチームのドリル練習などで宿題を克服し、再び実戦で試す。
このループには、一心不乱に自主トレに取り組むよりも高い効果が見込める。
常に自分に必要なトレーニングを見失わずに取り組めるからだ。
逆に言えば、自主トレで克服できるような技術的な課題をチームのトレーニングで修正しようというのはもったいない。
せっかく敵味方が複数いる状況がある貴重な時間なのだ。
実戦の場はテストとして捉えることで、より多くの成長、そして成長に必要な課題を得ることが出来るだろう。
後は、これをひたすら続ける。
無意識化に重要なのは、出来るようになってからだ。
出来る行為を、毎回きちんと行う。
忘れてた、ということが無いように。
この回数を重ねれば重ねるだけ、無意識化に近付く。
ここまで書いていたのは、当たり前に出来るようになるまで。
当たり前に出来るようになってから、更に無意識に出来るようになるまでどれだけ継続できるか。
そこの細部のこだわりが、選手の質を左右する。
続けることが最短の道
無意識に出来る、ということはなかなかハードルが高い。
体が勝手に反応するまで、何度も何度も意識して反復しなくてはいけない。
とても根気が要るし、心が折れるかもしれない。
それでも、続けるしかない。
徐々に、「あれ?今体が勝手に動いたな?」というシーンが出てくるだろう。
後はその頻度が上がるまで意識して続けるだけだ。
いつか、全く意識せずとも行動できるようになる。
多くの人は、二本足で歩いている。
「歩くためには右足を出して少し膝を曲げて・・・」
と毎回考えている人はそう多くないだろう。
それは、歩くという行為を膨大な回数反復したから体が覚え、無意識に出来ているのだ。
赤ちゃんはそれが出来ないから何度も転びながら出来るまで立ち上がる。
一つ一つの技術も判断も同様だ。
出来るようになるまで、考えなくても良いところまで磨き続けよう。
反復の回数は、この分野において正義だ。
まとめ
・「意識して出来る」の次の段階が「無意識に出来る」である。
・無意識は意識する人よりも早い判断が出来る。
・無意識に出来ることで、脳の処理に余裕が出来る。
・無意識に出来るようになるためには
「自主トレで出来るようになる」
→「意識してチームトレーニングで行う」
→「出来なかった場面や原因を分析する」
→「自主トレで課題の克服を目指す」
という順序で取り組む。
・自主トレは「宿題」、チームトレーニングは「テスト」というサイクルで成長を目指す。
・無意識化の最大のコツは「反復」
筆者が「無意識に出来るまで習得」が出来なかったプレーは沢山ある。
ボランチであるのにもかかわらず、
・前を向く
・縦パスを逃さない
・守備でDFラインに吸収されない
などの必須スキルや戦術を最後まで身につけることが出来なかった。
これらを早い段階で無意識まで習得できていれば、また違った選手人生を送っていたのかもしれない。
これを読んでいる選手の皆様に、そんな後悔はして欲しくない。
だから、ぜひ本稿を参考に取り組んで欲しい。
無意識に出来るプレーが増えたとき、以前とは違う景色でプレーが出来るはずだ。
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