W杯コスタリカ戦、伊藤のオーバーラップを真剣に考えてみる。

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先日行われたカタールワールドカップの日本VSコスタリカで、とあるシーンが話題になっている。

三笘がドリブルを仕掛けるところで、伊藤洋輝がサポートに行ったシーンだ。

 

 

このシーンの伊藤の動きが、身も蓋もない言い方をすれば滅茶苦茶批判されている。

が、一方で決して悪くはない、という論調もあるようで。

 

ということで今回は、このサポートについてちょっと真剣に考えてみたいと思う。

 

取り上げる理由

 

まず考える前に、このプレーを取り上げる理由から。

 

このブログは上達のために書いている

 

例外となる記事もいくつかあるが、このブログの大きなテーマは

「選手の上達の助けになるような記事」

という柱を据えて運営している。

で、一つのシーンを取り上げて細かく解説するという行為は、試合を理解する上ではそこまで助けにはならないと思う。

だが選手にとってはケーススタディとして、あるいはプレーの考え方として役に立つ部分があるはずだと筆者は考えている。

 

見てる人も楽しめる、らしい

 

そんな名目で色んなプレーをツイッター含めて解説したりしていると、サポーターの方からも結構なリアクションがあったりする。

つまりはサッカーを見て楽しんでいる人達にとっても、細かい解説は面白いようだ。

言われてみればその通り、自分がやったことないスポーツでも技術論や駆け引きを解説してもらえたら超うれしいし、より楽しめる。

なのでプレイヤーではない人も、読んで楽しんでもらえたらなによりである。

 

 

オーバーラップ、インナーラップについて

 

まずもって整理したいのは、よく聞く言葉であるオーバーラップと、そこまで有名ではないインナーラップについて。

 

外を回るのがオーバーラップ、中を追い越すのがインナーラップ

 

まず違いを整理すればこれ。

共通するのは追い越すサポートの形であること。違うのは内側か外側か。

なので、今回の伊藤の動きは「インナーラップ」である。

 

筆者の追い越しに対する考え方

 

ここからは持論。正解というよりは俺なりの考え方なので一意見として観て欲しい。

 

追い越すことが全てプラス、とは限らない

 

その昔、高校生の頃、筆者はサイドバックとしてプレーする機会が少なくなかった。だいたい一年ぐらいだろうか。

当時の筆者はある程度走れることを押し出そうと、ひたすら追い越し続けてなんとかアピールしようとしていた。

4-4-2ベースの学校だったからなおさらそれが良いだろうと。

その時に教わったことが、

「追い越す動きが全て良いとは限らない」

ということだった。

 

サポートとは、ボール保持者を良い状況にすること

 

この言葉一つで一記事そのうち書こうと思っているので、この記事ではサイドバックの追い越しについて簡単に触れるぐらいにしておく。

ボール保持者に対してサポートする意味は、より良い状態を作る、あるいはより良い状態で受けることだ。

たとえば、こんな配置になった場合。

 

 

いかにも追い越したくなるシーンだ。だがこの配置だけではそれが正解とは言いがたい。

 

もしボール保持者が立ち止まって正対していた場合。

この場合は追い越すことが正解だと個人的には思っている。

止まっているボール保持者よりも「スピードに乗った状態」でパスを受けられれば突破できる確率が上がるからだ。

 

 

だがこれが、ボール保持者がスピードに乗ってドリブルしていた場合を考えてみよう。

 

 

広いスペースで1vs1を仕掛けることで、選択肢は既に確保できていると言える。

この場合は追い越さずボール保持者に自由を与えておくという考え方があるわけだ。

 

更に、ちょっと配置が変わってこんな形。

 

 

この場合、外から追い越しても内から追い越しても、有効打にはなりにくい。

自分がボールに近寄っていくと言うことは、自分に対応するDFもついてくるということ。

 

 

先程まで広大なスペースで仕掛けられる状況だったのが、ごちゃっとしているのが分かるだろうか。

もちろんこれはちょっと極端な例だが、実際に起こりうる。

つまり何が言いたいか。

「あえて上がらないことでスペースを確保する、という考え方」

これが結構大事なんじゃ無いかと言うことだ。

 

シーンを振り返る

 

ではこれを踏まえて、実際のシーンを振り返ってみよう。

 

スタート時の配置

 

三笘にボールが渡った瞬間。

 

ほぼ独立した2vs2が展開される。遠藤がサポートにいける立ち位置にいるぐらいか。

 

 

図にすればこんな感じ。

 

三笘の個性を考える

 

ここで考えたいのは、三笘というプレイヤーの個性。

言うまでも無く、彼の長所は突破力だ。基本的に1vs1の状況を作れれば優位を取れるというレベル。

筆者としてはこの時点で、もし自分だったら

「三笘に自由を与える。遠藤と位置関係を取りながらリスク管理とバックパスの確保」

という選択肢を取るだろうなと思った。

 

伊藤のインナーラップ

 

余談だが、インナーラップ派とアンダーラップ派が居るらしい。

オーバーの対義語はアンダーだろうと。言われてみればそうだね。

 

で、伊藤はこの場面からインナーラップを選択する。

 

 

それに伴ってDFもついてくる。

ちょっと窮屈気味にはなるが、まだ問題はない。むしろペナ前を横切るような遠藤へのパスルートを創出したとも言えるし、このラン自体が有りか無しかは流派次第ぐらい。

 

と思ってたんだけど、よーく見返すと伊藤は三笘から離れるように、角度を付けて走っている。

これ、推測でしか無いけどより三笘を1vs1で仕掛けられるようにしたかったのかなと。

であれば意図としてはよく分かる。

実際、伊藤をケアするか三笘に対して2枚目でカバーするか迷ったDFは伊藤のケアを選択した。

もし伊藤が走ってなかったら伊藤を放置して1vs2になっていたかもしれない。

 

 

三笘の想定外の抜き方

 

ここで想定外のことが起こる。

三笘が内側に、しかしゴールに向かいながら相手をぶち抜いたことだ。

正直何度映像を見返しても意味が分からない。

これにより、2vs1の状況に変わる。

 

 

三笘と伊藤の二人でDF一人を攻略する状況が生まれる。

この時の静止画を見て欲しい。

 

 

この状況だけ見たら、裏を取るのは定石である。

しかしそれでも三笘は三笘。縦にぶち抜いていく。

結果として、一瞬だけ被ってしまう。

が、このとき伊藤はそれを迅速に察知して止まり、三笘が入っていくコースを空けようと必死だ。

 

 

そのまま三笘はグラウンダーのクロスを上げることに成功した。

 

伊藤が止まるべきだったタイミング

 

筆者の大まかな意見はこれ。

 

 

先程の静止画では裏を取っても良い場面だし、定石の一つではある。

だが映像として見てみると、伊藤の動きはDFを動かすことが出来ていない。

三笘が優位を持って次のDFに対して仕掛けることが出来ているため、そこへ突っ込む必要があったかどうかという点。

配置だけ見れば有効と言いたくなるが、ボール保持者の体勢を見ればそのまま仕掛けさせた方が効果的では、と筆者は思ったわけだ。

特に三笘であると言うことを考慮に入れた場合、前方のスペースは彼のために取っておくという理屈は正解と言えるのでは無いかと。

 

 

伊藤だけが批判されるのはちょっと辛い

 

とはいえ定石としては正しいし、三笘自身も伊藤の動きを利用しようという雰囲気は全くない。

ぶち抜けるから結果的には良いのだが、よりレベルの高い相手と対峙するときにはインナーラップをゆさぶりに活用する必要も出てくるだろうし。

ただこのグループで崩すという点に関しては、相性だったりすりあわせが必要な、属人的な要素が大きい。

それに加えてチーム内でどんな約束があるのか、というのも考慮に入れなくてはならないため、外からあれこれ言うのは控えたいところ。

 

そんなに問題視するシーンじゃ無くない?

 

と、ここまで細かく見てきたが。

確かに判断ミスと言える部分もあるし、結果として動きは被ってしまった。

だがそんなに問題視するシーンかと言われるとそんなこと無くない?とは思う。

結果的に三笘の邪魔になっているわけではないし、動きだけを見れば定石としては間違っているとも言い切れない。

もちろん改善の余地はあるが、いうほど話題になるシーンかと言われると正直疑問ではある。コスタリカ戦を振り返るのであれば、間違いなくここでは無い。

ついでに言っておくと吉田のクリアミスも取り上げる必要はない。わかりきったミスだからだ。

それよりも54ブロックに対する侵入方法とか、コスタリカのローテンションに付き合ってしまったとか、大きな要素は沢山あったと思う。

 

これをどう上達に役立てるか

 

さて、このブログの方針的にはここからが本番。

このシーンを見て、どう自分の糧にするかというお話。

 

ボール保持者の体勢、個性を考える

 

ボール保持者にとって、より良い状況を作り出すのがサポートだ。

そのためには、どんな体勢で保持しているのか、優位を握っているのか手詰まりなのか、どんなプレーが得意なのか。

そういったことまで考慮してサポートが出来れば、効果的な動きが出来るようになるはず。

今回で言えば後半の動きは褒められる物では無いが、前半の伊藤のランニングは三笘から他のDFを離すという効果を作り出した。

 

一つ一つの理由を考える

 

これはこのプレーに直接関連したわけでは無い話。

筆者はこうやって気になったプレーを見返し、原因と結果を追求することが多い。

それは結果として、サッカーの仕組みに触れることが出来るからだ。

サッカーは理屈じゃ無い部分が勝敗に大きく関わるが、一つ一つのプレーは理屈で説明できることが多い。

その理屈を理解する努力を続けることで、ピッチ上でも考えながら正しい選択が出来るようになると信じている。

 




 

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@山田有宇太

 

 

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