一人で出来るビルドアップ上達の勉強法その2。「門、ギャップを狙う意味とは?」
本シリーズで皆様にお伝えしたいのは、一人でも出来るビルドアップ上達のための取り組みだ。
ビルドアップはチームプレーであり、個人で取り組めるものではないと思っている選手が多いと思う。
しかし筆者はそうではなく、取り組み方次第では上達に繋げることが出来ると考えている。
前回の記事、その1はこちらから。
今回はポジショニングの考え方として大切になることを、より深く解説していきたい。
この記事を読めばビルドアップとはパターン化されたつまらないプレーではなく、相手との駆け引きが詰まった楽しいプレーであることが理解できるとともに、ビルドアップのみならずサッカーのあらゆる場面に生かせるポジショニングの考え方が学べるはずだ。
選手は自身のプレーに、指導者は選手へのコーチングに、サポーターは観戦するときの理解の助けになることを祈っている。
前回のおさらいと今回大事なこと
前回紹介したのは
「択を突き付ける」
という考え方だった。
DFに対して、二つ以上の選択肢を確保することで後出しジャンケンが出来るようになるというものだ。
そしてそのためには、ボールを持った選手が自らスペースへドリブルし前進する
「運ぶドリブル」
が必要不可欠になってくる、という内容だ。
では今回は択を突き付けるということを考えながら、どうやってボールを受けるか考えていこう。
選手にとっては今まで受けてきた指導と大きく異なる部分もあると思う。
逆に指導者にとっては有効なポジショニングをどう説明するかの参考になるだろうし、観戦がメインのサポーターの方には選手が何を考えてポジションをとっているのか、ポジショニングの上手さはどうやって見ればいいのかの理解の助けになるはずだ。
ありがちな、間違った指導
まずは筆者が実際に経験し、また周囲のチームでも起こっていた指導の状況から見ていきたい。
筆者が中学生のころ、日本サッカー界は空前のバルセロナブームに直面していた。
メッシ、シャビ、イニエスタ、ブスケツといった選手たちが揃い、華麗なパスワークで世界を驚かせていたころだった。
その影響か、GKから繋いだりパスで崩すようなサッカーをどのチームもこぞって取り組むようになったのだが、指導としては全く具体的な指示を受けることがなかった。
言われたセリフとして、
「もっと受けろ!」
「なんで失うんだ!」
「よく見ろ!」
というような、何の具体性もない指示ばかりになってしまう。
その結果、選手がどんなプレーをするようになるか?
ボールを受けることはできるが役に立たないポジショニング
という本末転倒なプレーが生まれてしまう。
ボールを受けるのは攻撃の手段の一つであるにも関わらず、指導者の声掛けによって
・怒られるのは怖いしダメなこと
↓
・受けられていないから怒られる
↓
・とにかくボールを受けなくては
という思考回路が完成してしまう。
その結果、なんとなくパスは回るが攻撃が成功するかは運頼り、たまたま数人のポジショニングが正解であれば突破できるというような上達とは呼べない状態が生まれてしまう。
「和式」とか「テレパシーパスワーク」とか言われるやつ。
では、どんなことを考えてポジションを取ればいいのだろうか。
そこで出てくるのが、前回のテーマであった
「択を突き付ける」
という考え方だ。
択を突き付けるためのポジショニングとは
「択」とは、複数の選択肢があり守備が対応しなくてはいけない状況だ。
つまり選択肢があっても守備が対応しなくていい、脅威にならない状態では意味がなくなってしまう。
具体的には、このようなポジションを取ってしまった時だ。
よく見かける、ボランチが落ちてきて受けるパターン。
引いて受けろ!と言われたときにやりがちでもある。
しかし正解とは言いがたい。
より相手が嫌がるポジションはこちらだ。
こちらの方が相手が嫌がる。
理由として
・DF2枚の間を突破されるのが一番怖い
・①ではパスが出てから対処することが出来る。DFは待つだけでいい。
②ではパス自体で突破されてしまうため対処せざるを得ない。
という状態になっていることがあげられる。
あとは前回の記事のように運ぶドリブルかパスかの択を突きつければ突破できるだろう。
もちろんこれは極端な例であり、実際のビルドアップではリスクの高さや後ろに必要な人数等を踏まえてあえて引いて受ける形も沢山ある。
だが全て何も考えずに引いて受けてしまってはいけない、という考え方を知っておくことが大切だ。
「守備のギャップを狙え」の意味とは
よくサッカーでは
「門」
「ギャップ」
という言葉が使われる。
DFとDFの間のことを一般的にこのように呼称する。
攻撃はギャップを狙え、守備はギャップを閉じろというのが鉄則だということは教わった選手が多いだろう。
では、なぜギャップには価値があるのか教わったことはあるだろうか?
その意味が分かっていなければ、上達には繋がり難い。
ではギャップの意味を「択」という面から考えてみよう。
DFに判断を迫らせるのが「門」
門とは、DFとDFの隙間のことだ。
ここを狙うということは、DFに対して様々な選択を迫ることが出来る。
具体的な例を挙げて説明していこう。
まず択にはドリブルとパスのどちらを対処するかというものがあった。
それがこちらの図だ。
DFは当然ながら、ドリブルで運んでくる選手に対して対処を考えなくてはならないが、その対処によってパスコースが空いてしまうというジレンマを抱えてしまう。
それが択の突き付けであり、後出しじゃんけんだ。
門はそれに加えて、どちらのDFが対処するかという選択も迫ることが出来る。
間を通すパスか運ぶドリブルか。
門を閉じれば外を使えばいい。
門を閉じないならパスやドリブルで通ればいい。
DF二人の連携が崩れたらそこから進めばいい。
このように「門」を基準にして考えると、様々な部分に択の突き付けが発生していることが分かりやすいと思う。
具体的な例として、先ほどの図にDFを一人加えた3vs3の図を。
この図の赤線、これが「門」だ。
そして一番前にいる選手がいるポジション、これは
「中間ポジション」
と呼ばれる立ち位置となる。
誰がマークにつくか決めにくい、複数人のDFの間に立つ状態をこう呼ぶことが多い。
このポジションを取ることが攻撃の選手には必要、と言われる流れがここ数年で強まった。
この選手のポジションをよく見てほしい。
このポジションというのは、3つ全ての門を狙った位置となっている。
左の選手からも右の選手からもパスを受けられる。
パスを受けたら後ろ2人の門を狙ってドリブルが出来る。
つまり、門を狙うことで自然とDFに択を突きつけ、中間ポジションを取ることが出来るのだ。
門を狙うということを目的とするのは、本来は手段と目的が逆になってしまう。
だが門を狙うことで自然に正解に近いポジションが取れるのであれば、有効活用した方がいい。
「正しいポジションを取るためには突破しなくちゃいけなくて、そのためには門を狙って・・・」
と考えるよりも
「門を狙うぞ!」
と考えた方が思考が速くなるはずだ。
もちろんその前提には、門と中間ポジションのメリットを理解している必要がある。
だがプレーするときの意識として、門を狙うとシンプルに考えるのはプレーに役立つはずだ。
門について、受け手が考えることは大まかに二つ。
①門で受けるパスコースを作ること
②門を通すパスが出せる位置を取ること
前の選手が①、右の選手が②となる。
なお②に関しては、持ち手のドリブルの方向としても使える。
このように門を目指してドリブルする、というのは非常に有効である。
センターバックが相手FW二枚の間に向けて運び揺さぶる、という場面は典型的例だ。
これも同様に門を狙うことで対処を強制させ後出しジャンケンを狙うプレーと言える。
すでに門がある場合はこのように考えていけばいい。
ではそもそも、門はなぜ出来るのだろうか。
門を狙う、門を作る
次に、この図を見てもらいたい。
門を狙うためにあえて寄って縦パスを通す動きだ。
この動き、バルセロナやバイエルンの鳥カゴでよく見られるシーンだ。
このように、ポジションをずらすことで門を狙うことが出来る。
しかしこの時、最初から寄ったポジションにいたらどうなるだろう。
普通に考えれば、DFはパスされても意味ないと考え放置される。
当たり前だ、ただマークについていればいいだけだ。
DFはボールを中心に守りながら、自分のマークも対処しなくてはいけない。
ボールを受ける選手が近寄れば近寄るだけDFは楽になり、ボールを持った選手の余裕は失われていく。
だから、寄って受けるだけではだめなのだ。
一時期の無秩序な日本代表で見られた光景だが、ただただ受けるためだけに引いてきてしまう。
結果パス自体は回るが、前進できず守備にとって脅威にならない事態が頻発していた。
本来は、一番最初に守備を広げさせて門を作るためにポジションを取らなくてはならない。
選手と選手がパスコースを維持しながらそれぞれが門を狙うべく、広く構えるのだ。
では相手を広げるというのはどんな状態か。
こちらの図を見て欲しい。
単純な話だが、開けば開くほどDFは対応する距離が広がるため比例して動かなくてはならない。
もし広がらなかったら前に走られてしまうからだ。
かといってDFが広がれば選手が門を狙えるようになる。
持ち手が出してもいいし、先ほどの図のように寄りながらワンタッチで門を狙ってもいい。
これも択の突き付けと言うことが出来る。
開いた選手に対応するか、門に対応するかだ。
(ここから細かい余談)
順序を変えて言えば、空いたスペースを狙っていれば攻撃は自然と広がるし対応のために守備も広がるしかない。
だから正確には、門を作るために広がるわけではないのだ。
なるべく正確に順序を書けば
空いたスペースを使うために広がる
↓
A.対応するために守備も広がる
B.放置する
↓
A.門が出来る
B.スペースが出来たままになる
↓
A.門から択を突きつけて突破
B.スペースから突破
という順番になる。
そして一番最初の広がった時点で既にAかBかという択を突きつけている。
(余談終わり)
この大前提となる正しいポジショニングというのが指導されにくい。
なぜこんなことが代表クラスでも起こってしまうのか。
理由は「受けろ!」としか言えない指導法にあると筆者は考えている。
受けることは過程であり目標ではない。
大事なのは、
「DFの嫌なポジションを取ること」
なのだ。
それが出来れば択を突きつけられる。
門が出来るかもしれないし、出来なかったら違う場所に穴が生まれる。
あとは後出しジャンケンで勝ち続ければいい。
このポジショニングを見習おうとせず、仕組みも分からないまま漠然とボール回しを目指した指導者が多かったのではないか。
本稿で一番伝えたいのが、この部分なのだ。
正しいポジションを取り続けること
ボールを受けろ!という指導では正しいポジションを学べない。
ボールを受けられていないから悪、ボールを受けられれば善、という判断は全く正しくない。
例に挙げれば香川真司だ。
彼は狭いスペースでもプレーできる貴重な能力を持った選手だ。
門が狭くてもしっかりボールを納め反転まで狙える。
彼がすべき仕事は、常に門の先で受け手として存在し続けること。
結果的にボールが受けられなくても構わない。
香川にボールが渡らないということは、それ以外の択で後出しをすればいいからだ。
もしそれでサイドから突破できれば、
「香川はボールに絡んでいないがDFの穴を作り出した」
として評価される。
だが、そうやってコーチングしてくれる人が少なかったのか、彼はボールが受けられない時間が続くとフリーになるまで引き続けてしまう。
結果として、ボランチに近い位置でフリーではあるが守備からしたら何も怖くない、というもったいないプレーが多くなってしまう。
簡単に言えば、
「そこで香川が受けてもなあ・・・」
と思っちゃうシーンが多いのだ。
正しいポジションを取る、というのは我慢することが大切だ。
ボールを出す出さないは持ち手次第、守備の判断次第だ。
自分にボールが来なくても他の味方がフリーになったり持ち手がドリブルで運べればそれは正解である。
その時に
「君のポジショニングのおかげで突破できたんだ」
と声をかけられる指導者がどれだけいるだろうか。
もし指導者の方がこれを読んでいたら、今一度再考してほしい。
そして選手の君たち。
ただ「受けろよ!」しか言わない指導者の言うことは真に受けなくていい。
その代わり、君の頭で必死に考えてほしい。
君が今いたポジションは持ち手を楽にさせていたか?
ただボールが欲しくてDFを引き連れてきていないか?
パスが来ないのはポジションが悪いせいか?
それとも門に顔を出し、DFを迷わせて助けることが出来ていたか?
もし正解ならそれを続けよう。
不正解でもいい。気付ければ成長できる。
今回のまとめ
・門はDFに択を突きつけることが出来る
・全員が門を狙うと自然と正しいポジションが取りやすい
・ボールを受けることよりも正しいポジションにいることの方が大切
・空いたスペースを狙うと自然と攻守ともに広がるはず
・ボールを受けたかよりもDFに影響を与えたかで考える
今回は「門」を通して受け手の考え方を中心に解説した。
次回からはいよいよ実戦的な例を挙げていく。
ここまでの考え方のベースを是非、何度も読み返して理解して欲しい。
ただビルドアップのパターンを知るのと、この考え方を踏まえて学ぶのとでは大きく成長のスピードが変わってしまう。
今回の記事の内容を頭に入れながら普段のトレーニングに取り組んでみよう。
今までと違ったポジショニングが見えてくるはずだ。
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