大人数のサッカー部でレギュラーを取るには?部員150人の学校出身の筆者が解説します。
筆者はTwitterのアカウントを通して、質問箱というサービスを利用している。
アカウントに対して匿名で質問を送ることが出来るサービスだ。
そこへ先日、こんな質問が届いた。
娘は50人以上部員がいる女子サッカー部で活動している高校二年生です。
現在Cチームなのですが、大所帯でレギュラーを取るにはどうすればいいですか?
現在、特に高校において部員が大勢いるマンモス部活というのは少なくないだろう。
例えば埼玉にある西武台高校のサッカー部は178人というとんでもない人数だ。
こういった大所帯の部活では、一般的なチームの考え方だけでは上のチームに所属できないことがある。
そこで今回は、大所帯サッカー部で四苦八苦し昇格する人出来ない人、あらゆるケースを八千代高校で見てきた筆者が
・どんな考え方が昇格しやすいのか
・サッカー選手として考えるべきこと
・高校部活という世界
といった点を解説していきたい。
大人数の部活で苦しむ選手、今後強豪サッカー部への進学を考えている選手、悩むお子さんを持つ保護者の方。天才ではない、あらゆる人に届いて欲しい。
大所帯部活の組織形態
まずは筆者の経験を元に、人数が多い部活はどのように構成されているかを考えていく。
今回の質問にもあるように、指導陣の評価に応じてチーム分けをするのが一般的だ。
例えば八千代高校では、
・トップチーム
・Bチーム
・Cチーム
・Dチーム(一年主体)
というように分かれていた。
それぞれに外部から雇ったコーチが指導に当たり、適宜選手の昇降格を決めるという形で流動的に選手を評価しつつチームを運営していく。
選手が大勢集まるような学校にはコーチが複数いることが多いため、今回の質問に対してもその前提で話を進めていきたい。
複数コーチがいる中での立ち回り
この複数コーチがいる体制、一般的な部活の選手から見たら羨ましいような環境かもしれない。だが、実際にそこで生活する選手にとっては難しい面もある。
そこで、どうすれば上のチームへ上がっていけるのかを考えていこう。
なお、質問の内容に準じて一番下のチームからという体で考えていく。
①現在所属するチームで突出する必要がある
当たり前だが、まずは今現在プレーしているチーム内で突出したプレイヤーになる必要がある。
これは上のチームのコーチに評価される以前の問題である。
基本的に、上のチームに行けば行くほど実力以外の選定基準が生まれてくる。
監督の好み、技術フィジカルメンタルのどれを重視するか、練習態度や生活態度・・・様々な要因が生まれてくるのだが、その理由として大きな実力差がないということがある。
だが、下のチームにいる現状は選手の質に大きな差があると見られていると言うことだ。だからまず目指すのは、現在のチームメイトを圧倒することになる。
そのために必要なことは後に詳しく書くが、
・現状分析
・課題の克服
といった点になる。
②上のチームでプレーするということ
チーム内で突出したら、自ずと他のチームのコーチからも注目されるだろう。その時にいいパフォーマンスが出来れば、昇格のチャンスを引き寄せることが出来る。
また、こういった複数人での指導は定期的に会議が行われており、選手の昇格に関しても議論がされている。
自チームのコーチが上のチームのコーチへ推薦してもらうためにも突出するのは必要なのだ。
その上で考えておきたいことは、
「上のチームに入っても適応できるか」
という点になる。
最も分かりやすく変化するのはプレーのスピードだろう。今までよりも速いプレスがかかったりマークが厳しくなれば、判断に必要な時間はどんどん短くなる。
下のチームで活躍できても上に入った瞬間に何も出来なくなってしまうことは少なくない。
今のチームの選手を圧倒するとともに、上のチームでプレーするイメージも常に持たなくてはいけない。
チャンスはいつ来るか分からないし、何回来るかも分からない。
だからこそ常にイメージしておき、自分の強みを出せるようにしなくてはいけない。
実際に筆者の体験談として、Bチームに怪我人が出たため急遽練習試合に起用されたことがあった。そこで一定の評価を得ることが出来、翌週からBチームに昇格することが出来た。
決してプレー自体が優れていたわけではないが、自分の強みと考えていた守備の強度、運動量、コーチングをとにかく出そうと決めたのが功を奏したのだと思う。
昇格するのが目標ではない。昇格した先で更に活躍しなくてはいけないのだ。
③各チームの方針を見る
複数の指導者が分担している部活は、必ずしも選手の評価基準が一定とは限らない。Cチームの控え選手がBチームでレギュラー、という事態は少なくないのだ。ということは、上のチームのコーチは何を求めているかを考える必要がある。
もちろんCチームで控えの状況が続けば昇格するチャンス自体が減ってしまうため、前記したように今のチームで活躍する必要もある。
これは矛盾しているようではあるが、達成が不可能なわけではない。
そのチームでは何を求められるか、上のチームではどこが変わるのか。それを真摯に分析すればプレーするチームに応じて自分のスタイルを変えることが出来る。
勘違いしてはいけないのは、これはコーチに媚びを売るわけではないということだ。
選手の役割は、監督が求めるプレーをすることだ。監督に応じてプレーを変えることは卑怯ではなく、生き残るための適応と考えた方がいい。
そしてスタイルの変更には基礎技術とサッカー脳の積み重ねがものをいう。
結局のところ、往々にして良い選手は適応が早いことが多い。良い選手になるためにスタイルを変えられる柔軟性を持つ、と考えれば前向きに捉えられるだろう。
もちろんプレースタイルを全て変える必要は無い。だが判断の基準を少し変えるだけで、適応することは出来る。
上達するための取り組み方
ここまでは、チームの昇格について考えるべきことを解説してきた。ここからはより大切となる、自分の成長についてだ。
選手として成長することがチーム昇格へ必要なことは言うまでも無い。だが闇雲にトレーニングを頑張っても、全てが報われるわけではない。
「努力は報われる」というのは綺麗事だ。
正しくは、
「正しい努力は報われる」
となる。正しい努力をするためのポイントを挙げていこう。
①他の選手と自分を比較する
まずは現状を把握しよう。
自分はなぜCチームなのか。Cチームの中ではレギュラーか?控えか?自分のポジションのライバルは誰だ?
その中である程度選手同士の力関係が見えてくる。序列と言い換えてもいい。
それが見えたところで、自分より上の選手と自分を比較してみよう。自分よりも優れた点はどこか。
自分が勝っているところはどこか。なぜその選手は自分よりも上手くプレーできるのか。
ここでのポイントは、なるべく具体的に考えること。具体的であればあるほど、自分に生かすことが出来る。
ただシュートが上手い、だけで終わってはいけない。どんなシュートが上手いのか?それともシュートを打てる状況を作るのが上手いのか?
守備であれば、対人が強いだけでは駄目でどんな状況だと止められるのか?とか。足が遅いのに1vs1の守備が上手い選手かもしれない。体格が小さいのにDFを背負うのが上手い選手かもしれない。
自分より上手いプレー、自分が勝っているプレー、それぞれをよく考えてみよう。そしてその理由まで見つけることが出来れば、自分のプレーに生かせるはずだ。
②コーチの声かけをよく聴く
コーチが多数いるチームにおいて大切になってくる点。
先ほど
選手の役割は、監督が求めるプレーをすることだ。
と書いた。
どうすれば求められるプレーが分かるのか。手っ取り早いのは、コーチの発言を聴くことだ。
どんなプレーが褒められている?どんなプレーで指導が入っている?
ここが分かれば求められる選手像が見えてくる。
更に細かいことを言おう。
自分よりも上のチームのトレーニングを見ていたときに、何度も出てくるコーチングを見つけたとする。その内容は、自分より上の選手でも出来ていないと言うことになる。つまりそれを達成できる選手であれば、昇格できるチャンスを掴みやすいのだ。自分のポジションのライバルが言われていたのなら尚更。
指導者は誰しもが
「もっと上手くなって欲しい」
「勝てるようになって欲しい」
と思って指導に当たっている。そのポイントが見えてくれば、自分がトレーニングしていなくても擬似的にコーチングを受けられる。意識、アンテナの立て方一つで練習量、勉強量を増やすことが出来るのだ。
③「自分の強みを伸ばせ」は信じるな
特に育成にあたる指導者がよく言う台詞
「自分の強みを伸ばせ」
これは信じてはいけない。
おおよそにして、強豪校のトップチームの選手は大半のプレーを高いレベルで備えている。Bチームの選手の強みをAチームのスタメン全員が持っている、などはよくある話だ。だから強みをより伸ばさなくては、と考える必要は無い。
それよりも必要なのは、あらゆるプレーの平均レベルを上げること。そして複数の武器を備えることだ。
一つだけ突出したプレイヤーというのは、計算がたちにくい。
たとえ全国クラスで足が速いFWでも、裏を取るタイミングが下手、ドリブルが下手、となってしまえば並の選手になってしまう。
それを避け、評価を得るためには二つ以上の武器がいる。かつ、それはシナジー(相乗効果)を産む物が良い。
サイドバックで対人に強く、運動量もあるとなったら守備に関しては1試合計算がたつ、と考えられるだろう。ボールを奪える、凡ミスをしないDMFであれば堅実なプレイヤーとして守備固めの時にチャンスが来るかもしれない。
それと同時に、あらゆる穴を無くす努力が必要だ。理由として、トレーニングでの評価と本質的な上手さの二点が挙げられる。
基本的にコーチは日頃のトレーニングを見て選手を評価する。そして特に育成年代でのトレーニングは、ポジションごとに細かく分かれることは少ないはずだ。
よくある4vs3などはまさにそうで、11人でのポジションとは関係なくプレーをすることになる。
だがこれはサッカーにおいて大切なのだ。ポジションごとの個性というのは、
「そのプレーをする機会が多い」
という捉え方が出来る。そのプレーだけやれば良いポジションはGK以外存在し得ない。
どんなに一つのプレーが優秀であろうとも、致命的な欠点を抱えている選手は起用しにくいのだ。
改めてトップチームにいる選手達を見て欲しい。一部の例外を除き、「サッカーが上手い」選手が集まっているはずだ。
ではどうすればそんな選手になれるのか。一番大切なのは
「基礎技術」
「判断力」
この二つだ。これだけは断言してもいい。この二つが「サッカーの上手さ」を支える。
常に選択肢を確保する判断力と奪われない基礎技術があるから、上手い選手とマッチするとボールが奪えない。
守備は真逆だ。守るべきところを守る判断力と対応の技術があるから攻撃が出来ない。
極論を言えば、選手の個性はこの二つの上に乗る物だ。この二つが確立できていなければ、強豪のスタメンを勝ち取るのはほぼ無理だろう。筆者が八千代高校で感じた一番の差もここだった。
筆者の感じたトップレベルとの差
筆者の年代の八千代高校には
・永門 勝也(鹿島)
・柳 育崇(栃木)
・附木 雄也(FC大阪)
といった化け物がそろっていた。
またそれだけでなく八千代には各Jクラブのジュニアユース育ちが流れ着く。レイソル、ジェフ、アントラーズ、アルディージャ・・・
彼らの背中を追いながら三年間サッカーに打ち込んで気づいたことは
「サッカーの上手さは簡単に縮まらない」
という残酷な現実だった。
どのポジションでプレーしても彼らは圧倒的に上手い。ということは個性とか強みとか以前に、全てに共通する「サッカーの上手さ」というものが存在すると言うことだ。判断のスピード、視野の広さ、奪われない力、奪う力。
挙げればきりが無いが、こういった要素が関連している。
そしてこの上手さを決定づけるのは
「無意識なプレーの習慣」
だという結論に筆者はたどり着いた。
咄嗟に、頭で考えるより速く行う動作。首を振る、であるとか。
ファーストタッチの置き所、であるとか。
DFがプレスに来ても背を向けない、であるとか。
そういった習慣は高校入学時点で大きく差がついてしまう。そして筆者はその差を埋められず、三年間を通して一度もトップチームへ昇格することはなかった。
「このプレーを上手くなろう」
だけでは辿り着けない領域だと気付いたのは引退してからだ。
サッカーの上手さの根底を考える
このテーマに関しては、考えるだけで1万字を超えてしまうような大変な課題だ。だが、大所帯で戦うために一番大事な項目だと思っている。
だからこそ、先に挙げた「他選手の分析」にこだわって欲しい。
なぜあの選手は奪われないのか。どのタイミングで首を振っているのか。どこにボールを置いているのか。
なにより、どんな考え方でプレーをしているのか。
自分より少しだけ上手い選手というのは、最高のお手本だ。そして同時に、超えるべきライバルだ。
良いところを沢山勉強し、追い抜かなくてはならない。ただの技術だけに着目してしまっては絶対に超えられない。
「あの選手はどこが上手いのか」
そして
「あの選手はなぜ上手いのか」
それを分析する癖がつけば、必ず上達できる。物事には必ず理由がある。理由を考える癖を付けよう。それが成長の第一歩だ。
他チームの練習、試合を見る
上記したことに取り組むために。
一番最適なのは、
「上のチームの練習、試合を見る」
という行為だ。
コーチがどんなかけ声をしているか。自分だったらどんな風にプレーするか。自分が出来ないプレーをどうやってこなしているのか。
プロの試合は参考になるが、自分との実力差が大きすぎると手本にしにくい。同じ学校の上のチームというのは、そういった点でも最高のお手本となる。
練習時間がずれていたり、試合が見れる状況なら積極的に見てみよう。そこかしこにヒントはあるはずだ。
終わりに
軽くまとめよう。
・「サッカーの上手さ」は基礎技術と判断力が土台になる
・上のチームのコーチの声かけは教科書だ
・強みを伸ばすより能力を底上げすべし
・「サッカーの上手さ」を自分なりに分析する
・それは簡単には縮まらないが不可能ではない
・他の選手を「具体的に」分析し自分のプレーやトレーニングに生かす
・上のチームの練習や試合を見てみよう
今回は自主トレのメニューの組み方や分析方法については書いていない。
人によって環境は千差万別であり、共通する物がないからだ。
とにかく一番伝えたいのは「サッカーの上手さ」という尺度を持つこと。コーチから要求されることは必要なプレーであること。
自分の立ち位置を常に認識し、上の選手から少しでも学ぶ。その繰り返しだ。
そして後書きになるが、高校は所詮閉じた世界だ。サッカーはもっと広く、いろんな世界がある。
決してトップチームに上がれなかったからと言って、それを理由にサッカーから離れるのはもったいない。
サッカーは、楽しい物だ。その原動力だけは忘れないでいて欲しい。
楽しさは、トップチームに入ることよりも大切だと思う。高校を二軍で過ごし、なお地域リーグにまで挑戦した筆者はそう感じた。
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