「正しい体の向き」についての議論を自分なりに整理した
発端はこのツイートだった。
適切な身体の向き?半身になって視野を広げる?この場面、誰もやってないけど、コレはそんな酷いチームの選手達なのか。 pic.twitter.com/OlmQmqZpf0
— きーす (@keith00096) June 3, 2021
このツイートを発端に、一瞬だけTwitter上で体の向きに対して色んな人が色んな言及をしていた。
このときに得られた知見がとても為になるものだったので記事にする。
自分の現役時代にこれだけ整理できていれば・・・というところまで整理できたので、今回は個人的な気付きとして体の向きというテーマに対して明確に文章として書いてみたいと思う。
先に結論
ちょっと長くなりそうなので、先に結論から書いてみたい。
「理想の体の向きはボール保持のときの話であり、パスを待つときの体の向きは別の話である」
というのが筆者の出した結論だ。
大筋を言えば
・ボディアングルとはプレーの選択肢に直結する
・ボール非保持時の視野は首振りで解決できる
・ボールに正対することのメリットが大きい
・どのタイミングでボディアングルを作るのか
という流れになる。
かつての常識と思われる説
「ボールを受ける時には体の向きを作りましょう」
これはかつて盛んに言われていたことだった。おそらくだが、今でも現場では言われていると推測する。
例えばこちら、2015年日本U-12ナショナルトレセンのトレーニングメニューの資料には盛んに体の向きというワードが登場している。
あるいは検索キーワードに「サッカー 体の向き」と入れると
「体の向きについて指導しました!」という類いのページが沢山見つかる。これは別に古いわけでも何でも無く、ここ数年のものも沢山ある。
その一方で私がTwitterでフォローさせて頂いている指導者の多くは
「半身で待つ指導なんてしたことがない」
という人を多く見かけた。
これは筆者の知る限りだが、ボールに対して正対するほうがいいという指導は正直に言って聞いたことが無かった。
そして筆者自身も体の向きを作るという知識に対し、てまったく疑う余地を持たず信じていた。
ところがこのツイートを発端として、自分の中で点と点が繋がる感覚が出来たのでしっかりと整理して記事に残すことにした。
かつて言われた理想
よく聞く理想をまずはまとめる。
「正しい体の向きで視野を確保しよう」
という主張が一般的な理想の体の向きである。
ものすごく簡易な図。だが意図は伝わって欲しい。
ボールと前進方向を両方見れる、だから半身でボールを受けよう。それが今まで言われてきたものだ。
つまりこの図のような体の向きでボールを待って受けるべし、ということ。
だが先のツイートにもあるように、そんな状態で待っている選手はトップレベルにいない。
この議論を見たあとに改めて注意して試合を見たが、Jリーグでもほとんど見かけなかった。
ではなぜこの体の向きではないのか、まずはその理由から考えていこう。
ボールに正対するメリットとは
ボールに正対して待つ。図にすればこんな感じ。
この体勢で待つメリットは大きい。
①あらゆるボールに反応できる
パスが弱かったらボールを守るために寄らなきゃいけないし、横にズレたら当然対応しなきゃいけない。
ボールに対して最も万全に対応できるのは正対している状態だ。
②足元かスペースか、パスの要求を伝えられる
これは構成上の事情により後で詳しく書きます。
③DFからボールを守れる
半身でDFを背負うのは決して簡単ではない。
仮にボールが弱かったりDFに読まれていて強いプレスを受けたとき、正対していればしっかりDFを背負って守ることが出来る。
実際、私は選手時代に無理やり半身で受けようとしてインターセプトされたことが何度もある。
なぜ「理想の体の向き」があるのか
ここで根本的な問いに一度戻りたい。
理想の体の向き、とはいったい何なのか。この目的、意味を考えることが大事になってくる。
私がたどり着いた結論は、
「プレーの選択肢を確保すること」
である。
ボール保持時、体の向きでプレーは決まる
ボールを持っているときの体の向きで、出来るプレーは決まってくる。
背中側にロングパスは出せないし速いドリブルも出来ない。つまりプレーする方向がおおよそ体の向きによって決まるのだ。
ということは理想的な体の向きとは、その時々に有効なプレーを選択できるように保つことなのである。基本的には相手ゴールを向くこと。
まずもって、この「ボール保持時の体の向き」という考え方を理解してほしい。
ボール非保持時は別の話では?
じゃあなぜボールを受けるときに、体の向きという話が出てくるのかという。
先にも書いたが、「視野の確保」というのが一番の理由となっている。けど、我々には首を振るという動作がある。
首を振ってしっかり情報を認知すれば、体の向きはそこまで問題ではないはずだ。
逆に言えば体の向きをしっかり保っていても、正しく情報を集めることが出来なければ正しい判断が出来ない。いい例が過去の私だ。
必死に体の向きを作ってはいたが、観ることが出来ていなかった。何の意味もない。逆に正しい情報収集と認知が身についている選手ならば、体の向きはそれほど関係なく判断のために必要な情報を得られるだろう。
それよりも、ボールを失わないために正対していい準備をすることのほうが大事、というのが私が整理した中でたどり着いた結論だ。
いつ体の向きを作るのか?
では正対した状態からいつ体の向きを作るのか。
これは大きく分けて3つほどある。一つはズルみたいなものなんだが、大別して説明していきたい。
①明らかに失うリスクが無いとき
例えばCB間の横パス、相手FWのプレスがほぼ皆無な時。
こういった失うリスクがほぼない状態では、パスが出る前から体の向きを作る場合もあると思う。DFとの距離によって体の向きが決まる。
②ボールの移動中
ボールの移動中にパスの軌道とスピードを見極め、DFとの距離が把握できればトラップする前に体の向きを作ることが出来る。
これの利点は、ファーストタッチからスムーズに動作に移れることだ。
どちらがパスを受けた瞬間に加速しやすいかは一目瞭然。
ボールの移動中にこれが判断できれば、次の動作でスピードに乗ることが可能だ。
③ファーストタッチ
ファーストタッチの瞬間に体の向きを変える。あるいは止めながら変える。
事前の情報収集で次に行うべきプレーが分かっていれば、そのためのファーストタッチは想像できるはずだ。
足元に止めながら体だけ向きを変えるコンパクトなタッチなのか。
背後にスペースがあるから大きめのタッチで前を向いて攻撃のスイッチを入れるのか。
DFのプレスをいなす横移動をしながら味方にパスをするのか。
事前の情報により次のプレーは決定される。
そのプレーに適した体の向きをファーストタッチで作り出す、これにはそれ相応の技術が必要だ。だから狭いところでも前を向ける選手は貴重であり、タッチラインに追い込まれてもボールを失わないSBは重宝される。
厳密に言えば、理想の体の向きは場面場面で変わる。リスクを背負って前を向くのか、安全第一でDFをブロックするのか、サイドを変えるために逆を向くのか。
あらゆる角度にターンできるよう、淡々とファーストタッチを練習することが必要になる。
先に挙げた「パスの要求を伝える」意味
ここで、先に挙げていた
「足元かスペースか、パスの要求を伝えられる」
という言葉に戻りたい。
体の向きは当然ながら、前を向いていたほうが速く走れる。
そこでもう一度先の図に、今度はDFを加えてみよう。
この体の向きから裏に走ることは難しい。出し手としてはDFから遠い脚に出して、しっかりボールを収めたい。
対してこのように前向きで待てば、裏を取りたいという意志が伝わりやすい。
原則としてボールと正対、裏を取りたい場合は前向きという使い分けをすることで意志を伝え、すれ違いを防ぐことが出来る。
ただしこれは例外というか応用と捉えていいと思う。
ボール保持と非保持を分けて考える
言い換えればオンザボールとオフザボール。
体の向き、ボディアングルと一言で言ってもそれぞれで違う答えが出てくると考えればここまでの話に納得がいくと思う。
実際、私はこの考え方にたどり着いたときにようやく腑に落ちた。
パスは出るまでどんなボールか確定しない。どんな方向にどんなスピードで、どんな軌道を描くのか分からないのだ。
それに対し正対して万全な準備をし、ボールを持つときにはなるべく体の向きを理想に保つ。
このように保持と非保持を分けて考えることで、より分かりやすくなると思う。
自分に足りないのは非保持時の情報収集なのか、パスに対する準備なのか、ファーストタッチで向きを作るのが出来ていないのか。細分化することで、反省点もより明確になり次に生かせるようになるはずだ。
選手はどうするべきか
じゃあこれを知った上で選手はどう自分の上達に活かすのか。
一つは、パスが出るまで正対するという意識を持つこと。これを実行すればボールロストが減らせるはずだ。
そしてもう一つは、体の向きを変えるファーストタッチを練習すること。
ボールに正対した状態から、攻撃方向へ正確にターンできるようにならなければいけない。あるいはボールの移動中に体の向きを作り替える練習をしても良いだろう。
今回筆者が学んだこと
今回の議論を通じて、筆者が学んだことが一つある。
本当にピッチで起きている現象を見ているか?
理屈として知っていること、知識として蓄えているもの。
それに踊らされてピッチで起きている事象を正しく捉えられていないのではないか。もっと真摯にピッチの中から答えを探すべきでは無いか。
まだまだ筆者もサッカーを知らない、もっと学ばなければと思い知らされた。心を改めて、0からサッカーを勉強していきたい。
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