元プロゲーマーに学ぶ「脳のキャパシティ」の大切さ。上達をキャパシティで考えてみよう。
Twitterなどでも度々発言しているが、筆者は最近ゲームに本気で取り組んでいる。完全なる趣味だ。
いわゆるFPSと呼ばれる、一人称視点で銃を撃ち合うチーム対戦型のゲームをプレイすることがほとんどである。このジャンルは年々世界的な大会も増え、日本国内にもプロチームやリーグが多く誕生している。
プロゲーマーのプレイや発言から学ぶことも多いのだが、その中にはサッカーに役立つ考え方も多く、
「現役時代に知っていれば・・・」
と思うことも多い。そこで今回は、そんな考え方の一つを紹介したいと思う。
この考えを提供してくれたのは、かつてOverwatchというゲームで国内最強を誇ったDetonatorにて絶対的エースとして君臨し、現在はVALORANTというゲームでコーチをしているXQQという男だ。
画像はCYCLOPS athlete gaming公式サイトより
彼は配信中に様々な相談に答えたり、上達法や上達の考え方について独自の視点から述べる機会が多い。
選手時代からストイックな性格で知られ、引退後も日本に数少ないゲーミングチームのコーチとして経験を積んだ彼の理論はとても興味深い。是非参考にしていただければ幸いである。
元動画はこちら
まずは元の動画をここに。
この動画の中身を、サッカーに適応できるよう筆者なりに噛み砕きつつ解説していきたいと思う。
想定された状況
この動画の序盤は、「こんなシチュエーションの人が居るとして」という前提の話。
具体的なゲームタイトルやランクなどが出てくるのでそこは一通り無視して、概要だけを抽出すると
「ある程度上達したところで行き詰まった人が、より上を目指すために勉強する」
というシチュエーションになっている。少し補足すると、初心者を脱却して上級者に挑むような状況だ。サッカーに置き換えれば登録メンバーには入れるが試合にはまだ出れない、であるとか一般校の中では上手い方なのだが強豪に歯が立たない、などが該当すると思う。
そしてこの状態にいる人たちが、座学で勉強をすることで上を目指そうとしている状況を想定して欲しい。
・このポジショニングを取ればDFにとって嫌らしい
・この状況でぼーるをもらったらまずはここを見てみよう
・この守備組織の作り方には、この配置が刺さりやすい
などなど、理論について学ぶことはとても大切だ。
理論、理屈を知ることは大切
さて、このプレーに関する理屈、理論だが。
Jリーグにおいても、それは戦術的に見たら決して正しいとは言えないぞ・・・という判断をする選手は少なくない。
端的に言ってしまえば「判断ミス、理解不足」の選手は多いのだ。それはtwitterに数多く存在する戦術クラスタのツイートを見ながら試合観戦をすると痛感するだろう。
このプレーはここがミスだと言える、という指摘は多く見受けられる。これ自体はまったくもって間違いでは無い。
だが、これを知ることで選手がすぐ上達するか、と言われれば答えはNoだと筆者は思っている。その認識を裏付けるように分かりやすく解説してくれたのがこのXQQの動画なのだ。
知識があればプレーできる、という単純なものではないことを改めて認識しなければならない。
サッカーとは、同時に多くのものを見て、多くのことを考えて、かつ体を全力で動かしながらボールを正確に扱わなくてはいけないスポーツだ。
例としてビルドアップを挙げれば理屈が分かっても、
・正確にボールを止め
・ボールから目を切り
・奪われる恐怖を超えて体の向きを作り
・確実にボールを運び
・正確な判断で正確なパスを出す
という要素がある。しかも、これら一つ一つが出来たからと言って、試合中に発揮できるかと言われればそうではない。
むしろ知って、出来るようになってから。プレーに活きるまでに大きな壁がある。
それが「脳のキャパシティ」だ。
脳のキャパシティが追いつかない
サッカーで言えば技術、視野の広さ、フィジカルなどが該当する部分。
ここの練度が上がらないと、頭の中に新しいものが入ってこない。正確な表現をすれば、新しいものを考える余力が無いと言うべきか。
トラップが得意では無い人が、トラップの次のことを考えながら正確に止めるというのは無理がある。ドリブルにしても視野の広さにしても同様だ。
頭を使わずとも出来ることを増やす。頭を使わずとも高い精度で出来る。その練度を高めていくことが、結果としてキャパシティの余りを生み出すことが出来る。
この話に関しては以前、意識的無意識的というテーマで記事として書いた。
じゃあどうするべきか
ではどう習得すればいいのか、という点になってくる。
ここからは現役時代の反省、そして現在進行形でゲームを上達させている筆者の独自理論になると思う。だが体感しているからこそ、参考になる部分もあるのでは無いかと思い、書き残すこととする。
①出来なくても良いから知ること
まずは、出来なくても良いから理屈を知ろう。知ることが大事だと筆者は学んだ。
何故か。ミスしたとき、出来なかったときに
「ああ、この場面こそやるべきなのか」
と認識できる。手本を、正解を知ることで失敗を意味あるものに出来るのだ。失敗の密度を上げる、という表現をしても良い。同じ失敗から得るものが多い人ほど成長は早いはずだ。
そしてミスを実感する回数が増えてきたとき、ふと体が反応して勝手に実行できるときがある。そこまできて、無意識に発揮できるようになってきてようやく習得したと言えるだろう。
②技術を徹底して磨く
ドリブルドリルや、パス練習など基礎技術をとにかく徹底して磨くこと。これがとても大切だと筆者は常々考えている。
精度そのものも大事なのだが、ここで伝えたいのは「ストレスを感じずにそれを行えること」という状態まで鍛えるべきだと言うことだ。
この手の話をするときによく引き合いに出されるのが自転車だ。
最初は誰しも転びながら自転車に乗れるようになる。重心の位置、転ばないバランスなど必死にこぎ続ける。
だが更に乗り続ければ友人と会話しながら、あるいは考え事をしながらでも乗れるようになる。違法行為だが、スマホを操作しながら自転車に乗るのも決して難しくは無い。
このように手慣れた行為、練度の高い行為であればほとんど頭を使わずに行うことが出来るようになる。
ドリブルもただ運ぶだけでは無く「咄嗟に交わす」「体を入れてキープする」。トラップであれば「遠い足で止める」「スペースに転がす」といった判断を含む動作まで、練度次第で頭を使わずに行えるようになる。
このレベルまで到達したときに、勉強して学んだ理屈を考える猶予が出来てくるはずだ。
二つを同時に取り組んでみる
この二つに同時に取り組んで欲しい。理想の流れとしては
・座学や勉強でサッカーの理屈、理論を学び
↓
・出来なくてもいいから実戦で意識してみる、使うべきだったーという実感を持つ。
↓
・同時進行で技術の練度を上げ、脳のキャパシティに余裕を持たせる
↓
・余った脳の容量で、習得すべき点をより意識する
↓
・繰り返し意識することで、無意識に出来ること、習得したことを増やす
というようになる。かつて「察知力」という本で中村俊輔が
引き出しを増やす
という発言をしていたが、このような出来ることを増やす作業を指していたのでは無いかと思う。
これを増やし続けることで、適切なポジショニングを取れる場面が増えたり、判断の優先順位を正確に捉えられるようになったりと「定石」を増やすことが出来るはずだ。
【定石】
囲碁で、最善とされる決まった打ち方。転じて、物事を処理する時の、決まった仕方。~Oxford Languagesの定義より~
おおまかなプレーの正解と言っても良いし、最適解に近いものを反射的に表現できるようになると考えても良いだろう。
是非参考にして、意識して勉強とトレーニングの両輪を同時に回して欲しいと思う。
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