育成年代こそセルフケアが必要だ、と強豪校で走り込みを体験した筆者が語ります
サッカー選手、特にベテランの選手においてよく語られる切り口の一つに
「セルフケア」
というものがある。
しかし、セルフケアはベテランに限らず、全ての年代において必要だ。
しかし育成年代の選手たちは実感が少ないかもしれない。
そこで本項では、強豪校に進学し多量の走り込みを含むトレーニングを経験した筆者が、中高生の年代におけるセルフケアの重要性について、経験を元に書き記したい。
セルフケアとは?
そもそもこの言葉の定義から簡単に。
Wikipediaを参照すると
自分自身をケアすること、すなわち自分自身で世話をする・面倒を見ることである。
参照元・・・Wikipedia
スポーツにおいては、
「コーチやトレーナーに頼らず自分でケアをすること」
と言い換えられるだろう。
ケアにも肉体、精神の両面があるが、本稿では
「肉体的セルフケア」
に的を絞って話を進めていきたい。
なぜセルフケアが必要なのか
よくスポーツのドキュメンタリーやインタビューでセルフケアについて話題になるのは、ベテランの選手に関した時が多い。
育成年代や若手に比べて体の回復が遅いベテラン選手は、チームとして取り組んでいるケアに加えてセルフケアに取り組むことで、厳しいプロの世界で戦い続けている。
53歳にしていまだ現役Jリーガーのカズ(三浦和良)選手が最たる例だろう。
しかし、育成年代である中高生にも欠かせない。
むしろその年代だからこそ、セルフケアに取り組むべきと筆者は考えている。
その理由をまずは挙げていこう。
①休みが少ない
一番筆者が感じた理由である。
特に強豪校や強豪チームにいる選手ならば、休みの少なさを痛感しているのではないだろうか。
筆者が在籍した八千代高校では、丸々一日休めるのは年間2桁もなかった。
オフは毎週月曜日、当然ながら学校があるため回復に専念することは出来ない。
夏休みなどの長期休みには二部練習も多い。
練習試合も一日複数試合あることが珍しくない。
これではいくら回復が早い若い年代といえど、消耗してしまう。
疲労の溜まった体でトレーニングを行えば、待っているのは怪我だ。
自分の体を守るために、セルフケアは欠かしてはいけない。
ここからは余談だが、八千代高校ではトップチームであったり全国大会にスタメンで出たような選手でもサッカーを高校で引退してしまう選手が少なくなかった。
筆者の学年のサッカー部は52人いたが、卒業後も選手を続けたのは7人程度である。
辞めた選手に理由を聞いたら
「もうサッカーをするのが疲れた」
という返事が来た。
これは、メンタルバーンアウトと呼ばれる症状だったのかもしれない。
分かりやすい言い方をすれば
燃え尽き症候群
というものだ。
必要以上にハードなトレーニングに肉体も精神も疲れ切った結果、選手人生自体が嫌になってしまう。
全国大会でも通用する能力を持ちながら、辞めてしまう選手を見てそんなことを感じた。
それほど負荷の高いトレーニングが日本の中高生ではありふれた光景である。
怪我の予防だけではなく、長くサッカーを続けるためにもセルフケアは必須ではないだろうか。
②体の歪み、悪い体の使い方を覚えてしまう
筆者は重度のO脚である。
そして慢性の肩こりがあり、腰痛一歩手前である。
膝は右の半月板が疲労によりヒビが入り、O脚と合わさってすぐに水が溜まる。
足首には異常がないものの、基本的にはボロボロだ。
この体の歪みに、筆者は長らく悩まされている。
歪んだ原因は探せばきりが無い。
固いグランドでもスパイクでプレーしていたこと。
高校時代に過負荷の走り込みが継続的にあったこと。
そして、セルフケアにそこまで取り組んでいなかったこと。
O脚も膝の故障も、無いに越したことはない。
体のバランスが崩れている以上、パフォーマンスが落ちてしまう。
また、成長した後のトレーニングにも影響が出ることを考えれば損失は大きい。
疲労により怪我をし、怪我をかばって変な癖がついてしまう。
変な癖がついた結果、更に新しい怪我をしてしまうかもしれない。
怪我をしないことも才能の一つ、とはよく聞く言葉だが予防するための取り組みが欠けてはいないか。
怪我の期間練習できない、だけでは済まされない悪影響がその後の人生について回ってしまう。
その後のサッカー人生ではない。
その後の人生全て、引退した後も影響は間違いなくある。
正しく、より良いプレーが出来る体の使い方をマスターするためにも。
セルフケアで疲労から身体を守ることが大切なのだ。
高校の年代でも慢性的にテーピングをしたり、痛み止めの薬を飲む選手も少なからずいる。
程度に違いはあれど、皆同じような状況なのかもしれない。
もっとセルフケアの文化が進めば、そんな光景は減っていくだろう。
③常に100%でトレーニングすることの重要性
練習することは大切だ。
それは全員が認めるところであり、筆者も異論はない。
しかし、練習の効率というものをどれだけ考えているだろうか。
疲労した体で85%の効率の練習をするのか。
全力で挑めるコンディションで張り詰めた100%の練習をするのか。
どちらが効率がいいかは明確である。
そしてもう一つ、練習に100%で取り組むべき理由がある。
それは、
「自主トレはチームトレーニングに勝てない」
というものである。
自主トレとチームトレーニングについて、詳しくはこちらのページにて解説している。
簡潔にまとめれば、
「実戦的かそうでないか」
という点に大きな差が出る。
自主トレで課題を克服することも大切だが、一番大切なのはチームトレーニングで全力を出すことだ。
自主トレをしすぎて常に疲労した状態でチームトレーニングに臨む、というのは上達の妨げとなってしまうのは誰でもわかるだろう。
また、自主トレは自分のさじ加減で練習量をコントロールできるため、
「質を量で補う」
ということもオススメはしないが不可能ではない。
だが、チームトレーニングは実施時間が決まっている。
そして自主トレでは判断や戦術的な面を伸ばすことが難しい。
判断力がとても重要なサッカーでは尚更、チームトレーニングが大事なのだ。
突き詰めて言えば、
「一日2時間の練習の中でどれだけ成長できるか」
ということになる。
肉体、精神の両面で良いコンディションを作り、練習に臨むことでその時間内での成長を高めることができるだろう。
その準備として、一日のトレーニングの疲労を一日で自然に回復させるのが難しい場合、自主的にケアをして回復に努める必要がある。
試合のためのコンディショニングとは別に、毎日のトレーニングに向けたコンディショニングという意識があれば、セルフケアは必須となるはずなのだ。
筆者の失敗
先ほど、筆者には体の歪みが多数あると書いた。
また、その原因も少しだけ触れた。
なぜそうなってしまったのか、より詳しく触れたいと思う。
筆者の進学した八千代高校は、根性主義に近いものがあった。
上手くならない、上のチームに上がれないのは自主トレが足りないからだと言われ続けた。
チームトレーニングは放課後の2時間のみと決して長くはなかったが、その分自主トレを要求された。
素直で愚直だった筆者は、毎朝、そしてチームトレーニングの後も自主トレを続けた。
その為に毎朝4時半に起き、就寝は12時という過酷な生活を送っていた。
後に専門学校へ進学し、練習環境が変わることでこのサイクルが間違いだったと気づくこととなる。
具体的に間違っていたと感じたポイントを挙げていこう。
①常に疲労感や眠気がある、集中力に波がある
必要な休息をとらず、自主トレに没頭していた結果、慢性的な疲労を感じるようになった。
先に挙げた体の歪みや故障も、ここで作られたのではないかと感じている。
その結果、
・前向きな気持ちが安定しない
・フィジカルコンディションが悪い
・練習中に精神の糸が切れてしまう
→ネガティブになる、集中力が切れるなど
という事態が多発した。
当然練習の効率は落ち、周りに置いていかれてしまう。
そこで取り組み方を改めれば良かったのだが、当時の筆者にはそれが出来ず
「置いていかれるということは努力が足りないのだ」
と更にサイクルを悪化させていくこととなる。
②コンディションがいいと判断の質も変わることを感じられなかった
肉体的な疲労は、精神状態にも影響する。
身体が疲れている状況が続けば気が滅入るのは経験がある人もいるかもしれない。
単にポジティブでいられない、ネガティブになるだけではなく、判断のスピード自体も落ちてしまう。
専門学校に進学したのち、トレーナーとマッサージに取り組むことでガッチガチに固まっていた筋肉の一部をほぐすことに成功したのだが、その時に頭がクリアに働く感覚を覚えた。
それ以降は肉体的な疲労を感じたら、自分の精神や頭の回転を一度確かめ、疲労状態を見極めることにしている。
つまり、高校時代は常に判断力が低下している状態でプレーしていたことになる。
精神的に疲労し、ネガティブになりやすく、頭の回転が遅くなっている状態では当然選手としての評価は上がらないし、成長スピードも遅くなってしまう。
そのことにもし早く気付けていれば、高校時代にもっといい選手になっていたかもしれない。
③選手として評価されなくなる
先ほどさらっと「評価は上がらない」と書いたが、ここに大きな損失の可能性がある。
指導者はどのようにして選手を評価し、試合に出すメンバーを決めるのか。
当然ながら、トレーニング中のパフォーマンスを見て決めている。
あるいは実際の試合かもしれない。
しかし、試合で評価してもらうにはそもそも出場するチャンスを得なければいけないため、大前提は
トレーニングでどれだけいいプレーをしているか
という点になるわけだ。
これが普段から疲労し、冴えないプレーをしていたら、当然チャンスが巡ってくる可能性は下がってしまう。
例えば、あなたが1週間後にプロチームの練習に参加できることになったとしよう。
そこでのパフォーマンス次第では、あなたの獲得も視野に入れて考えているとそのチームは話す。
この場合、前日夜遅くまで自主トレをし、睡眠不足や疲労を抱えた身体で臨もうとする選手はほとんどいないのではないだろうか?
それと同じことが、日々のチームトレーニングにも当てはまるのだ。
もちろん自分の課題を解決するには負荷がかかっても自主トレをしなくてはいけない。
しかし計画を立て、きちんと体をケアすることが出来ればチームトレーニングに支障が出ない、あるいは小さい範囲で取り組み事が出来るはずだ。
自分を客観視できているか?
そういったセルフケアが出来るようになる、そして常に高いパフォーマンスを発揮するには、自分を客観視することが欠かせない。
今の自分はどんな状態なのか?
肉体に疲労は溜まっていないか?
睡眠は足りているだろうか、眠気はないか?
肉体は大丈夫でもストレスを抱えてはいないか?
指導者の怒号にビクビクしていないか?
これらを少しでも意識して客観視することが出来れば、あとはその改善に取り組むだけだ。
その方法は様々だし、調べればヒントはたくさん転がっている。
自分が上手くなるため、良いパフォーマンスを出すため。
ひいてはサッカー選手として悔いなく過ごすためには、セルフケアは必須だ。
本稿から、それに気付くのが遅すぎた筆者の気持ちが伝われば幸いである。
常に100%集中できる選手は、間違いなく充実した選手生命を送れるはずだ。
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