足下の技術を磨く一番の利点は「ボール保持時のストレスを無くす」ということだ

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先日、川崎の試合を見てて思ったことがある。

「家長はボールがあってもDFが近くても全くストレスを感じていない」

この「ボール保持時のストレス」という考え方、選手の上達を考える上で非常に大事なポイントになってくる。このブログでも何度か触れているが、筆者は技術を磨ききれなかったために様々な後悔をしてきた。現役時代に成功しなかった大きな要因の一つだとも考えている。

そこで今回は、この「足下の技術」と「ストレス」の関係を考えていきたい。
なぜ筆者が技術不足で困ったのか。どんなことを後悔しているのか。どうすれば上達していけるのか。皆様の助けになれば幸いだ。

 

 

 

 

ボール保持時のストレスとは

 

イメージしやすいようにストレスという言葉を使ったが、別の言葉を考えるのであれば「脳のメモリを食う」と言っても良いと思う。

PCにおけるメモリとは作業机の広さだ。広ければ広いほど、同時にいくつもの作業が出来る。机の広さを変えないのであれば、それぞれの作業が使うスペースを小さくするしか無い。これをサッカーに当てはめて考えてみよう。

サッカーには考えなくてはいけないことがたくさんあるし、得なくてはいけない情報も山ほど有る。なにしろ22人が動き回っているのだ。GKを除外したとしても、自分を含めて20人。その中で適切な判断をする、そのためにひたすら視覚から情報を集めるというのがサッカーの根本だ。今誰がどこにいるのか、数秒後に何をしているのか、何を狙っているのか。情報収集と予測がサッカーにおける脳の作業と言える。
そんな戦いをしている最中に、ボールを扱うことに対してストレスを感じる、メモリを使用してしまうというのは大きなハンデと言えるだろう。パスが来たときにトラップへの意識で頭がいっぱいになってしまっては、その後の判断が極めて難しくなってしまう。
DFがボールを奪いに来たときに少しでもパニックになってしまえば、視野が狭くなり情報収集もままならないのは想像に難くない。

筆者が現役時代に最も悩んだのが、これらのストレスだ。結果として筆者は、戦術的に正しい判断が出来る知識は持っていたが実際にプレーをすると全く活かせずミスを繰り返す、そんな選手になってしまった。

原因は明らかで、「DFの前でボールを持つ自信と経験が欠けている」事だった。

DFがいない状態、いわゆるボール遊びでは他の選手とそれほど差があったわけでは無いが、少しでもプレッシャーを感じたり、あるいはボールから目を切って周りを見る、という状況になった途端に何も出来なくなってしまう。いわば「クローズドスキル」「オープンスキル」の差である。この課題に筆者はずっと悩み続けた。たぶん深く悩みすぎてドツボにハマっていた。引退して時間がたった今になって、ようやく原因が客観的に見えてきた。それは同時に、「ボール保持時のストレス」の中身が具体的に分かった瞬間でもあったのである。

 

具体的なストレスの中身

 

ここまではボール保持時のストレス、という考え方の概要を述べてきた。ではその中身を具体的に見ていこう。

 

①技術を発揮するために意識してしまう

 

文面だとわかりにくいので、具体的に例を挙げてみようと思う。

例えばボランチがCBからパスを受けて前へターンする。よくあるシーンだ。上手い選手であれば、何も考えずに出来るだろう。
だがこのシーンに技術不足の選手が出会うと脳内はどうなるか。

まず、正確にターンするために意識の大半が使用されてしまう。トラップをミスしたら奪われてしまうわけだから、奪われないために必死にトラップをする。言い方を変えれば、「反転するトラップに必死になってしまう」のである。技術を発揮するために必死になれば、当然周囲の状況把握や判断に割く脳内リソースなど残っているはずもない。何も考えずにターンできる選手との差は歴然だ。

 

②プレッシャーに怯えてしまう

 

DFが近付いてきた瞬間に

「やばい、奪われる!!!」

と脳内で感じてしまうのが筆者のクセだった。後から思い返すとどの年代にもこういった選手はいたし、そういう心理はプレーを見ているだけでも伝わってくる物である。

DFがいなければ出来るトラップも、DFがそこにいるだけで出来なくなってしまう。そんな経験自体は誰しもがあるはずだ。この恐怖心の由来は、自身と過去の経験から来る物だと筆者は考えている。過去に奪われて怒られた経験、あるいは怒られなくても失点に繋がるような致命的なミスだった経験があれば怯えてしまうのはある種仕方の無いことだと思う。怯えずにルックアップして判断するという行為を頭では理解していても感情が追いつかない選手は沢山いるだろう。やるべき事が分かっているのに出来ない、理解していても実現できない。この苦しさは真面目に努力できる選手ほど味わう辛さだ。

この恐怖心も、筆者としてはボール保持時のストレスと定義して良いと思う。別の言い方をすればプレスへの耐性だ。上手い選手はDFが詰めてくることを全く苦痛に感じず、むしろ利用しようと観察してくる。この意識の余裕の差は、プレーの質に大きく関わってくるはずだ。また、①で上げた技術に意識が持って行かれる現象はプレッシャーへの体制とも関わってくる。DFが奪いに来たときに、「ここにボールを置いてキープして・・・」と頭で考えてしまっては、奪われないことで精一杯になり駆け引きや広い視野を保つことは期待できないのは想像に難くないだろう。 

 

どう解決するか

 

ここまでの説明で、技術的な面と精神的な面それぞれにおけるストレスについて理解いただけたかと思う。
ではこれらをどう解決し、プレーを改善していくか考えよう。

 

①技術を無意識下まで身につける

 

まずはここ。頭で考えずとも技術を発揮する状態を目指す必要がある。
以前に「意識的と無意識」というテーマで記事を書いた。こちらも是非参考にして欲しい。

 

 

この記事と関連する部分をまとめれば、

「無意識に(咄嗟に)技術を発揮できるまで練習する」という点が非常に大切となる。頭のメモリを使わずに咄嗟に技術が発揮できるようになれば、意識を持って行かれるという①の減少に関しては対処できる。
具体的なシーンを言えば、DFの足が出てきたときに反射的にドリブルでよけられる、サイドチェンジをトラップする際にDFをしっかり観察しながら適切なトラップが出来る、などになるだろうか。イメージしたプレーを他のことを考えながら出来るようになるのが理想である。

 

②DFと対峙する経験を増やす

 

筆者が取り組まずに後悔した部分はここだ。DFに対する恐怖心を克服するには、経験を積み重ねるしかない。
確かに背後からDFが狙っている中で、前向きにトラップをするのは怖い。だがそれを恐れて失わないトラップを繰り返すだけでは、前を向くプレーを習得することは出来ないだろう。同様に、運ぶドリブルやビルドアップに関しても失うことを恐れて安全なパスを繰り返すだけでは成長が止まってしまう。

今現在、苦手なプレーを克服するには挑戦するしか無い。DFが奪いに来るとき、頭がいっぱいでも良い。「それでも逃げずに対峙して判断する」という挑戦をしなくてはいけない。筆者はメンタルが弱くビビりだったために、こういったチャレンジを重ねることが出来なかった。何故挑戦しなくてはいけないのか。理由は簡単で、挑戦しなければ何が足りないのか何で上手くいかないのかという原因が分からないからだ。恐怖心を抱いている状況では全ての原因が「恐怖心」で終わってしまう。それを克服し、さらに必要な課題を見つけるためにもチャレンジする必要がある。

とはいうものの、技術が咄嗟に発揮できない状況ではいくらチャレンジしても成功するとは思えない。だからこそ、足下の技術が必要になってくるのだ。

 

改善の順番

 

これは個人的な考えであるが、技術をまず身につけた方が良いのではないかと考えている。理由はいくつかあって、

①自力で身につけやすい(自主トレしやすい)
②奪われないことで積極的にチャレンジできるようになる

という点が上げられる。①は言わずもがな、練習すればするだけ身に付くというところ。
②に関しては、恐怖心を克服するための一番の近道は「ボールを奪われない経験をすること」だと思っている。自主トレで身につけた技術で咄嗟にDFを一回でもかわせたら、奪われない経験が出来る。それを積み重ねることによって、DFが来ても焦らずに判断することが出来る。順序としては、

足下の技術を磨く

DFから奪われなくなる

ストレスを感じなくなり、余裕が生まれることで駆け引きにチャレンジできる

より奪われなくなり、ストレスを感じなくなる

という好循環を目指すということになる。一度この感覚を覚えることが出来れば、プレッシングを受けてパニックになることは無くいかにプレッシングと戦うかという点を考えることが出来る。その感覚はサッカーで上を目指すに当たり、絶対に必要な感覚だ。

 

ストレスを減らすためのトレーニング

 

ではどんなトレーニングをすれば良いだろうか、という話になる。
それ自体は筆者にアドバイスをすることは難しい、当然ながら人によって足りないスキルは違う物だからだ。だが各自頑張れ、というだけで終わらせるつもりも無い。そこで、これだけは最低限身につけると役に立つのでは、という技術をいくつか紹介したい。

 

①ドリブルドリル

 

自主トレの代名詞とも言えるドリブルドリル。賛否両論あるこの練習法だが、筆者としては是非取り組んで欲しいと考えている。取り組むときに必要なのは、「目的意識」だ。

以前、ドリブルのドリル練習に関してはこんな記事を書いた。

この記事の中で、ドリブルドリルに対する心がけをこのように書いた。

「極論はボールを見ないでドリブルドリルが出来ること。それが出来れば判断ミスが無くなるしボールも奪われなくなる。ドリブラーになるためじゃなくてアタッカーとしてこの能力はあると便利だ。」

「ドリブルドリルを行うときは、なるべくボールが視野の端。他に自主練してる選手や歩いてる他人を見ながら行うようにすれば、試合のピッチの広さにも対応できる」

このアドバイスをくれたのは高校時代の友人だ。
彼は中学時代からドリブルドリルの目的をしっかりと考え実施していた。その中で辿り着いたのが、この考え方だったという。

「ボールを見ずに扱う技術」

というのがいかに大事かを考え、ドリブルが上手くなることよりもボールを見ずに周りを見ながらドリブルできる技術を磨くことはとても大切だ。狭い局面でのドリブルでも、ボールでは無くDFを見てかわさなくてはいけない。その時にボールを見ないとドリブルできないようでは奪われてしまうだろう。もちろん広い局面ならなおさらだ。

 

②ボールから目を切るトラップ、パス

 

これも理由としては上記のドリブルと近い。ボールを受ける前にルックアップ、というのはよく指導される。だがそのルックアップをボールが転がっている間に出来るだろうか?もっといえば、トラップする瞬間やパスする瞬間にもボールから目線を外せるだろうか?

プロの試合をよく見ると、ショートパス程度の距離であればほぼボールを見ずにトラップ、パスが出来る選手は少なくない。それはスキルに自信があり、かつ目を切る練習をしているから出来る芸当だ。プロのようなスピードの中で戦うには、その一瞬でも周りを見れなくなることが致命的になりかねない。だからパスを出す瞬間までDFを監視しながらプレーを判断しているのだ。

この技術は土のグラウンドだと難易度が上がる。だが是非練習してみて欲しい。この意識を持っているだけで、試合の時に咄嗟に顔が上がる瞬間が出てくるはずだ。

 

動作を体に染み込ませろ

 

自主トレの利点は、量を追えることだ。そして技術や動作は癖として体に染み込ませることが出来る。
コーンドリブルを速くするために必死にドリブル練習すれば前屈みでボールしか見ていないドリブルが身に染み込むし、パスを出すときにボールを見ないという動作を繰り返せば実戦でもその動作は反射的に出てくるだろう。

良いプレーをするために必要な癖、動作を体に染み込ませる。それによってDFへの対処を叩き込み、恐怖心を克服する。

それが出来たとき、しっかりとDFを観察しながらプレーできるようになるだろう。それがストレスが無くなるということだ。
ボールを扱うのに不自由を感じず、DFが来ても冷静に見極めることが出来る、その境地を目指して是非練習してみて欲しい。手本となる選手は家長、大島、サンペール、清武などJリーグにも多数存在する。観察したら参考になるポイントも沢山あると思う。

筆者はDFとの駆け引きを習得できず、最後までプレッシャーと戦えないまま現役を終えてしまった。おそらくサッカーの攻撃の楽しさを半分しか知らないまま引退してしまったのだ、と思うと悔しさが募り未練が残る。それが本心だ。だから皆様には、そんな思いだけはして欲しくない。是非プレッシャーに耐性を付けボール保持時のストレスを無くし、攻撃の奥深さを感じて欲しい。

 

 




 

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